活動レポート

シリーズ「太鼓・民舞の息づく保育園」

シリーズ1 「街のみんなの保育園」  埼玉県 鳩ヶ谷市

「みんなが主役」の鳩ヶ谷の夏まつりは今年で18回めになります。今年も7月10日の夏まつりに向けて、各園で練習が盛り上がっています。

 あじさいが咲き、梅雨の空模様が気になる頃には、まつりの準備も盛り上がってきます。鳩ヶ谷市内保育園五園合同の夏まつりです。
 鳩ヶ谷市には私立保育園一園、公立の市立保育園が四園あり、父母と職員が一緒に子ども達のすこやかな成長を願い、保育運動をすすめる五園合同PTAが組織されています。保育料値上げに反対したり、よりよい保育を積み重ねる為に地域の中で運動を拡げていますが、その中で父母と子ども達と保母さんと地域をつなぐ文化として夏まつりが生まれました。
 打ち合わせで電話をすると、電話の向こうで「ラッセラー」のかけ声がきこえてきます。6月のはじめには、南保育所のくじら組(年長組)の子どもたちから、絵のたよりが届きました。
 「なつまつりでいっしょにおどろうね」
 「なつまつりにきてね」
子どもたちの元気のよい声がきこえてきそうです。

 大人も子どももまつりの準備で忙しくなります。夏まつり当日には各園競ってくり出すおみこしは、何週間も前からお父さんを中心に家族総出で手が加えられていきます。昨年からは五園のそれぞれの色のたづなを子どもたちがひいて「かさほこ」が登場しました。
 今年も保母さんたち、お父さんお母さんの太鼓と踊りの練習に荒馬座もかけつけます。本番前には体育館でリハーサルが行われます。それは、もはや前夜祭として、気分が高まります。  年長組の力強い太鼓で開幕の夏まつり。荒馬座もあいさつと合わせてぶち合わせ太鼓を叩きます。校庭いっぱいのパワーあふれるそーらん節。大獅子の中には小獅子がいっぱい。おみこしに笠鉾。そしてお母さん達の秩父音頭につづいて荒馬踊り。年長さんが荒馬踊りを踊った後には、参加者みんなで「ラッセラー、ラッセラー」とはねます。夜空にかけ声がいつまでも大きく響いています。

 荒馬座もまつりの創り手として仲間に加わっています。今年の夏まつりももうすぐです。体も心も熱くなってきているようです。今年も鳩ヶ谷の街にとどろけ夏まつりのパワー、夏まつりの太鼓!

 夏まつりが終わると普段の夏の生活に戻りますが、子どもたちの中では夏まつりごっこがひろがります。小さい子たちが、年長さんの荒馬踊りをはじめ、あの日目にやきついたもの全てをみようみまねで演じているのです。プールの前の準備体操にまでそーらん節が踊られたりする保育園もあります。  秋まつり、運動会にも民舞がとりくまれます。
 そして年長組は保育園生活の仕上げに自分たちの馬をつくり、荒馬踊りを在園児と父母、先生達の前で堂々と踊って巣立っていきます。
 太鼓や民舞が日常の保育や遊びの中にしっかり根づいて体に息づいている鳩ヶ谷の子どもたちです。

(奥村)  第228号(1999年7月1日発行)より



シリーズ2 「木更津の夏がやってきた」  千葉県 木更津市

 毎年、夏には木更津の私立保育園『社会館保育園』の園のホールに泊まり『岩根保育園』『むつみ保育園』の三園をまわり公演します。今回は木更津の三つの保育園をご紹介します。

 『木更津』といえば暑い、熱い夏、元気な子どもたちや保母さん、そして新鮮な魚・・・と、次々にイメージがわくほどに公演班にとってはすっかりお馴染みとなりました。
 最初の出会いは、社会館保育園の園長先生が声をかけてくれたことでした。公演経費などを考えるといくつかの保育園の公演がまとまった方がいいというこちらからの呼びかけに、すぐにいくつかの保育園によびかけてくれました。それが今から15年前。最初は冬の観劇会としてでした。時には雪のちらつく中、園庭でやったこともありましたが、寒い冬にやるよりもということで夕涼み会の夏の公演として定着してきたのが今から8年前です。毎年三園が合同で呼んで下さるのですが、三園ともそれぞれに特徴があります。

 『社会館保育園』は、はだかで泥んこになって遊ぶ、たくましい子どもたちがとても印象的。保育園の方針も、とてもユニークで、どこからどこに出るかわからない秘密の通路だらけの『忍者屋敷』があり、そこで遊ぶのを楽しみにしている座員もいます。今年も相変わらずたくましい子どもたちとあうことができましたが、一方で獅子を極端に怖がる子も増えてきていて、子どもたちの様子が年々変わってきているようだと、先生も心配しておられました。
 『岩根保育園』といえば、おとなしくて素直な子供たち。毎年、獅子舞となると蜘珠の子を散らしたようにいなくなり、机の下や保母さんの腕の中に泣きながら隠れている姿が可愛らしいです。
 『むつみ保育園』は毎年保母さんの団結力とパワーで夏祭りを成功させています。今年は保母さんが地元の方からお囃子を習って、子どもたちによるユニークな大獅子を披露しました。

 毎年、木更津から荒馬座の夏の講座に、園から研修として保母さんが何人か送り出されてきます。保育園の中で子どもたちに太鼓や踊りの実践がしっかりと息づいているのにはこうした積み重ねがあり保育園相互の大きな理解があるからだと感じます。遠い木更津ですが、荒馬座との距離は近い木更津の保育園です。
 来年の夏また、子どもたちとの再会が楽しみです。

第229号(1999年9月1日発行)より



シリーズ3 「大きくなるってすてきなこと」  神奈川県 横浜市

 開園15周年を迎え、9月5日、神奈川県立青少年センターホールで記念コンサートをおこなった横浜の「鳩の森愛の詩保育園」を紹介します。

 横浜にある、鳩の森愛の詩保育園との関わりは、1997年の夏、八千穂にて職員、父母、子どもたちの研修会から始まりました。保育園丸ごとの研修、それも宿泊をしてというのは初めてでした。その時の印象は、とにかくパワフルで、すごい人達でした。
 その後、花太鼓や風のまつりを取り組んでいただき、今回15周年記念コンサートに向けて、年長と学童の子に荒馬踊りとぶち合わせ太鼓を教えるため、5月より月二回行き始めました。
 どんな子達だろうと緊張していた私に、先生が「何か質問ありますか」「ハーイ、ゼリーは何が好きですか」と。どんな質問かと思えば...。もう大笑いでした。その後も練習のある日は朝から「まだ来ないの」と待っていてくれるようになりました。(嬉しい事です)

 年長とはいえ、春の時期はまだ身体も充分に出来ていないので、不安な所もありましたが、子ども達が楽しそうにそして、〇〇ちやんのはカッコイイと、お互い認めあえる関係は素敵なことだと思いました。
 学童の子達も、まずはコミュニケーションから。「今日5時間目何だった?」「...」学童に来る前の事なのに忘れている子達に、大物を感じました。太鼓は経験していたので、あとは楽しく伸び伸び叩ければ、と何回も叩きました。そして、三回目の夏の研修今年は15周年に向けてと、目的がハッキリしていたので一段と熱が入りました。職員も父母も休む間を惜しんで練習し、腕が上がらない、筋肉痛と言いながらも、太鼓に向かうと叩いてしまうのです。何がそこまでさせるのか。15周年のお祝い、そして、8月1日に正式に認可になったこと。その祝う気持ちが現れていたのだと思います。
 9月5日コンサート当日。保育園児、学童、職員、父母OBの方々の歌声の暖かさ、優しさ、たくましさ。太鼓を叩き踊りを踊る、子どもに大人達。たくさんの思いが、この日この時に輝きました。
 鳩の森愛の語保育園のすごいところはたくさんありますが、その中でも、保育の中に民族芸能がしっかりと位置付けられていることです。心や身体を鍛えたり、より良い世の中を願って生まれた芸能の力を、身体を通して子どもたちは学んでいます。
 鳩の森愛の詩保育園とのお付き合いは、まだ短いですが、子どもたちの健やかな成長を願う大人の思いは同じです。これからも太鼓や踊りを通して、人と人とのつながりを大切に、一緒に文化を創っていけたらと思います。

(淺井好子) 第230号(1999年10月1日発行)より



シリーズ4 「ステキな大人たちの姿を!」  埼玉県 桶川市

 この秋に、創立二十周年記念行事として、荒馬座公演『母里のまつり森の詩』に取り組んでいただいている『桶川たんほぼ保育園』を紹介します。

 『桶川たんぽぽ保育園』では、7年前に荒馬座を「観劇会」として取り組み、その後は園の「夏まつり」で荒馬座と一緒におまつりをつくっています。園では10年以上前から先生方を中心に太鼓や民舞の実践を続け、今年は荒馬踊りに取り組み、園長先生を先頭に「ラッセーラー」と元気よくはね回りました。
 お父さんたちが夏まつりで太鼓をたたくようになって四年目、今年は下打ちもお父さんたちだけでやりました。ずっと続けている人から今年初めてバチを握る人も一緒に三ヶ月にわたって稽古に汗を流し、夏まつりでは息のあった「ぶち合わせ太鼓」を披露しました。
 お母さんたちは踊りで登場します。「花笠音頭」や沖縄の踊り、ここ2年ほどは「よさこいソーラン」に取り組み、みんなで集まって構成を考えてお互いに教え合いながら練習して、本番ではなんと30人以上で踊る大群舞をつくりあげています。

「お父さんの太鼓カッコイイー」「お母さんの踊りステキだったよー」という子どもたちの言葉を励みに、お互いにひそかに対抗意識を燃やしてながら夏まつりに取り組んでいる大人たちです。
 子どもたちは、大人の太鼓や踊りを見て、自分たちも叩きたい、踊りたいという気持ちをふくらませていきます。太鼓では下打ちに合わせて自由打ちをしたり、とにかく気持ちよく楽しくたたくことを大事にしています。年長さんになると荒馬踊りを踊ります。小さい子たちは年長さんを見て「早く年長さんになりたいー」とあこがれを持ちます。太鼓も踊りも型にはめることなく、自由に自然にふれていく中で、子どもたちはのびのびと育っていきます。
  「親が楽しめば子どもも楽しむもの。カッコいいお父さんステキなお母さんの姿を見ることが子どもたちには何より楽しいことです。

 ステキな大人がまわりにいっぱいいることが子どもにとって楽しいことだし、楽しいことをいっぱい経験することが、後々の生きる支えになると思います。夏まつりが親にも子どもにも楽しい、いい思い出になっています。
 園で太鼓や踊りを続けて、技術的にもうまくなりたいけれどとにかく楽しむことが大事だと思っています。」と園長先生は熱く語ってくれました。

第231号(1999年11月1日発行)より



シリーズ5 「大人も子どもたちも前へ向かって」  群馬県 新田町

 保育園20周年記念行事として「あした葉のうた」にも取り組んでいただいている『生品保育園』をご紹介します。

 草木染めのまくりに子ども達の手書きの絵が描かれた馬。もちろん、頭も子ども達の手作り。一人一人の大切な馬を身につけ、園庭せましとはね回る荒馬踊り。子ども達の生き生きとしたはねっぶりに私たちはうきうきとした。
 群馬県新田町の生品保育園ではここ10年くらい荒馬踊りが年長の取り組みとして続いている。以前はリズムの「荒馬」を取り上げていたが、荒馬座との出会いから日本の芸能に取り組みはじめ、今ではほとんど全員の保母さんが、ぶち合わせ太鼓や秩父屋台囃子、荒馬踊りやソーラン節など荒馬座でおなじみの演目ができる。

 こんなに芸能を取り上げるのはなぜか尋ねてみた。
「荒馬座と出会って共鳴することがいっぱいあった。汗、笑顔、決して手を抜かず向かっていく姿勢。そんなことが私たちの保育に向かう気持ちと響き合ったんだと思う。」と栗原園長は言う。
「子ども達は前を向いて生きる生き物でしょ。だから、保母もしんどいことはいっぱいあるけど、前へ向かっていきたいと思っている。」

 子ども達にとっては荒馬踊りは年長になると踊れるあこがれの踊りだ。保母たちの生の囃子が子どもの踊りをより生かしている。子ども達は自信たっぷりに大振りの跳ねをする。遅れがちの友だちいるとき、先頭の子は、どう動きだすのがいいのか、みんなで丸い輪をつくるために、自分はどう動いたらいいのかなど、職員の子ども達への要求は高い。そして、それが達成されたときは、みんなでほめ合う。
 卒園した学童の子どもは毎年、夏まつりでぶち合わせ太鼓を叩く。いい顔をしている。

 そして、保育園の小さな子ども達も太鼓が大好きだ。世界中どこでも太鼓はある。人間の原点を感じさせてくれる楽器だから、小さな子ども達も触れてみたくなるのだと考えている生品保育園。和太鼓がホールのすみにたくさん積み上げてある。この園の子ども達にとって、日本の芸能はとても身近な存在になっている。
 職員研修として毎年、荒馬座の演技者をよんで、泊まり込みで講習会を開く。今年はエイサーに取り組み始めた。沖縄まで職員旅行に行って、イメージとあこがれをたっぷりもった保母さんたち。今年の夏まつりも大いに盛り上がることだろう。

(貝塚理子)  第233号(2000年2月1日発行)より



シリーズ6 「心の手と手」  埼玉県 富士見市

 園の観劇会に声をかけていただいている埼玉県富士見市にある「こばと保育園」。昨年、父母と保母さんで太鼓サークルが誕生しました。

 荒馬座の公演を初めて観た日。ドーンと保育園じゅうに響く音。とても心地良く、次は何がはじまるのかドキドキ、ワクワクそして、幼い頃からお祭りや太鼓が大好きだった私は、自分の手がムズムズしてきたことを今でもよく覚えています。
 職場の先輩方は、一度は荒馬座の講座を受けたことのある先生ばかり。夏祭りでは、恒例の荒馬おどりにこばと保育園オリジナルの田娘おどり。運動会では、ソーラン節、若駒踊り。ぶちあわせ太鼓は、どの職員も腰を落として力いっぱい叩きます。太鼓がはじまると0、1才の子どもたちも体を揺らして喜んだり、年長さんのラッセラーを真似して、ちょこちょこ走りまわる姿も見られます。
 また、今年に入ってからは、初の地域講座を保育園でひらき、荒馬踊りの笛にチャレンジしました。きっかけは、年長児が卒園児が卒園式で荒馬踊りをやりたい!それなら、みんなで応援しましょう!というものでした。
 しかし、いざ始まってみるとなかなか音が出ないつらい日々を送った職員もいましたが、仲間にずっと支えられ、毎日毎日、家で保育園で練習し、三週目の最終日には、全員音が出る発表会を迎えることができました。

 そして、昨年四月に「こばと太鼓サークル」が発足しました。毎年夏になると、職員と園児の親といっしょに夏祭りで太鼓をたたくことが、ここ数年の恒例になってきました。「もっと練習したい」「毎年やるならサークルにしちゃおう!」と親から声があがり、できたサークルです。徐々に会員も増え、地域の人も参加するようになってきました。働きながら、子育てを頑張っている忙しいお父さん、お母さんの息ぬきであり、楽しみの場の一つになってきているようです。子どもは、みんなで面側みあい、ぐずる子は、おんぶやだっこしたまま叩いちゃう、保育園のサークルならではのアットホームな雰囲気で、月に〜3回練習をしています。昨年は、地域のお祭りにもミニ出演をしました。現在は、こばとばやし・ぶちあわせ太鼓・虎舞に取り組んでいます。

 晴れの日もあれば、曇りの日もある。だけど、太鼓を叩くと踊りを踊ると自然と心が晴れてくる。それでも、やっぱり一人じゃつまらない。太鼓を囲む人が集まり、人と人で太鼓をたたく瞬間、踊りを踊る瞬間、知らず知らずのうちにみんなで心の手と手をつないでいる。
 民舞の持っている本当に不思議な力、そして、楽しさを実感しています。

(大谷優子さん)  第234号(2000年3月1日発行)より